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東京地方裁判所 平成8年(ワ)18246号 判決 1998年12月18日

原告

エービー テトラ パック

右代表者

ラース オッケフォースバーグ

原告

日本テトラパック株式会社

右代表者代表取締役

柚木善清

右両名訴訟代理人弁護士

長谷川純

右補佐人弁理士

中村友之

外三名

被告

四国化工機株式会社

右代表者代表取締役

植田滋

右訴訟代理人弁護士

久田原昭夫

久世勝之

右補佐人弁理士

岸本瑛之助

廣田雅紀

主文

一  被告は、別紙イ号物件目録及びロ号物件目録記載の「包装積層品をヒートシールする装置」を製造し又は販売してはならない。

二  被告は、その占有する別紙イ号物件目録及びロ号物件目録記載の「包装積層品をヒートシールする装置」を廃棄せよ。

三  被告は、原告エービーテトラパックに対し、金四五五万九三六四円及び内金二二一万二九二〇円に対しては平成八年一〇月一〇日から、内金二三四万六四四四円に対しては平成一〇年四月一六日から各支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

四  被告は、原告日本テトラパック株式会社に対し、金一二九七万〇〇八〇円及びこれに対する平成一〇年四月一六日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

五  原告らのその余の請求をいずれも棄却する。

六  訴訟費用はこれを八分し、その一を原告らの負担とし、その余を被告の負担とする。

七  この判決の一項ないし四項は、仮に執行することができる。

事実及び理由

第一  請求

一  主文一、二項と同旨

二  被告は、原告エービーテトラパックに対し、金六七一万九三六四円及び内金二二一万二九二〇円に対しては平成八年一〇月一〇日から、内金四五〇万六四四四円に対しては平成一〇年四月一六日からそれぞれ支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

三  被告は、原告日本テトラパック株式会社に対し、金一七八三万〇〇八〇円及びこれに対する平成一〇年四月一六日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

第二  事案の概要

一  本件は、後記二1の特許権を有する原告エービーテトラパック及びその専用実施権を有する原告日本テトラパック株式会社(以下「原告日本テトラパック」という。)が、別紙イ号物件目録及びロ号物件目録記載の「包装積層品をヒートシールする装置」(以下、それぞれ「イ号物件」及び「ロ号物件」といい、合わせて「被告物件」という。)を製造販売する被告に対し、被告物件の製造販売が右特許権及び専用実施権を侵害するとして、被告物件の製造販売の差止め及び廃棄を求めるとともに、不法行為に基づく損害賠償の支払を求める事案である。

二  争いのない事実等

1  原告エービーテトラパックは次の特許権(以下「本件特許権」といい、その発明を「本件発明」という。また、本件発明に係る明細書を「本件明細書」という。)を有する。

特許番号 第二五〇一七七七号

発明の名称 包装積層品をヒートシールする装置

出願日 昭和五七年一〇月八日

登録日 平成八年三月一三日

特許請求の範囲

「繊維質材料の支持層(1)の内側にアルミ箔等の導電性材料層(4)を有し、さらにその内側に熱可塑性材料層(3)を有する一対の積層材料(10、11)を互いに、その最内層である熱可塑性材料(3、3)間でヒートシールする装置において、前記熱可塑性材料層(3、3)同志を互いに接触させて該一対の積層材料(10、11)を外側から押しつけるための作用面(8)を有するシールジョー(5)が設けられ、該シールジョー(5)は、非導電性の本体(6)と該本体(6)の一方の側面に設けた導電性の棒(7)とで構成され、該棒(7)は、該一方の側面とで前記作用面(8)を構成するとともに、前記一対の積層材料(10、11)の導電性材料(4)をシール帯域以内で高周波誘導加熱し、該一対の積層材料(10、11)の最内層である前記熱可塑性材料層(3、3)を溶融するべく高周波電源に接続するようになっており、該作用面(8)により、該熱可塑性材料層(3、3)同志が前記シール帯域で圧接され、さらに前記導電性の棒(7)には、該シール帯域以内で、高周波加熱により溶融された熱可塑性の材料層(3、3)を押し流す突条(9)が前記シール帯域(12、14)に非対称的に位置して設けられていることを特徴とする積層材料のヒートシール装置。」

2(一)  本件発明は、原告エービーテトラパックが、昭和五七年一〇月八日にした特許出願(特願昭五七―一七七四八六、以下「昭和五七年出願」という。)を平成四年九月三〇日に分割した出願(特願平四―二六二三四三、以下「原出願」という。)について、平成六年七月二六日に更に分割出願(特願平六―一七四三四八、以下「本件出願」という。)したものが、補正を経て特許されたものである。

(二)  昭和五七年出願の平成四年一月二三日付け補正書によって補正された後の明細書(以下「昭和五七年出願明細書」という。)における特許請求の範囲(3)は、次のとおりであった(乙五、一一、一八)。

「積層材料をヒートシールするための装置にして、各積層材料は、その一表面を覆い、かつ該積層材料の融点より低い融点の熱可塑性材料の外層(3)を有し、前記熱可塑性材料の外層(3)を中央シール帯域(13)およびその両側のシール帯域(14)に沿って互いに重ね合わせて該両シール帯域(13、14)以内で互いに接触させ、さらに、該両シール帯域(13、14)に沿って前記熱可塑性材料の外層(3)の一つに押し付けられるようになった作用面(8)を有する細長いシールジョー(5)を有するようになっている積層材料のヒートシール装置において、前記シールジョー(5)は前記両シール帯域(13、14)に沿って対向ジョー(12)に対して前記熱可塑性材料の外層(3)を押し付けるための平らな表面を有する本体(6)と、該本体(6)の平らな表面に形成された溝と、該溝内に嵌合され且つ前記本体(6)の平らな表面と一致するようにされた作用面を有し、前記熱可塑性材料を溶融材料とするように前記熱可塑性材料の外層(3)を加熱するための加熱棒(7)とを含み、前記作用面(8)には、平な平面を有する突条(9)が設けられ、該突条(9)の平らな平面が前記両シール帯域(13、14)以内で前記熱可塑性材料の外層(3)を互いに押し付けるようになっており、これにより、溶融材料が流出されるが、これが前記熱可塑性材料の外層(3)の溶融していない部分によりせき止められるようになっていることを特徴とする積層材料のヒートシール装置。」

(三)  原出願の出願当初の特許請求の範囲請求項1は、次のとおりであった(乙二)。

「繊維質材料の支持層(1)の内側にアルミ箔等の導電性材料層(4)を有しさらにその内側に熱可塑性材料層(3)を有する一対の積層材料(10、11)を、互いに、その最内層である熱可塑性材料層(3、3)間でヒートシールする装置において、該一対の積層材料(10、11)の最内層である熱可塑性材料どうしが少なくともシール帯域(13、14)間で、互いに接触させられ、さらに該シール帯域(13、14)に沿って積層材料の外層側から該一対の積層材料(10、11)を押しつけるための作用面(8)を有しかつ前記導電性材料層(4)を加熱するための高周波電源に接続されたシールジョー(5)を有し、該シールジョー(5)の作用面(8)には、シール帯域(13、14)内で高周波加熱により溶融された熱可塑性材料層(3、3)をシール帯域(14)に押し出し堆積させるための凸条(9)が設けられていることを特徴とする積層材料のヒートシール装置。」

(四)  本件出願の出願時の明細書(以下「当初明細書」という。)における特許請求の範囲は次のとおりであった(乙七)。

「繊維質材料の支持層(1)の内側にアルミ箔等の導電性材料層(4)を有し、さらにその内側に熱可塑性材料層(3)を有する一対の積層材料(10、11)を互いに、その最内層である熱可塑性材料層(3、3)間でヒートシールする装置において、前記熱可塑性材料層(3、3)同士を互いに接触させて該一対の積層材料(10、11)を外側から押しつけるための作用面(8)を有するシールジョー(5)が設けられ、該シールジョー(5)は、非導電性の本体(6)と該本体(6)の一方の側面に設けた導電性の棒(7)とで構成され、該棒(7)は、該一方の側面とで前記作用面(8)を構成するとともに、前記一対の積層材料(10、11)の導電性材料(4)をシール帯域以内で高周波誘導加熱し融解するべく高周波電源に接続されるようになっており、該作用面(8)により前記一対の積層材料(10、11)の最内層である熱可塑性材料層(3、3)同士が前記シール帯域およびその両外側帯域で互いに圧接されるようにされ、さらに前記導電性の棒(7)には、該シール帯域以内で、高周波加熱により溶融された熱可塑性の材料層(3、3)をシール帯域の一方の側から同シール帯域の他方の側へ押し流すための凸条(9)が設けられていることを特徴とする積層材料のヒートシール装置。」

(五)  原告エービーテトラパックは、特許庁審査官から本件出願について拒絶理由通知を受けたので、平成七年一〇月四日付けの手続補正書を提出し、特許請求の範囲を前記1のとおりに補正した(以下、この補正を「本件補正」という。)。

(六)  明細書の特許請求の範囲以外の記載及び図面は、昭和五七出願、原出願、本件出願、本件補正を通して、変更されていない。

3  原告エービーテトラパックは、原告日本テトラパックに対し、本件特許権について専用実施権(以下「本件専用実施権」という。)を設定し、平成八年一二月一六日、その旨の登録がされた(甲二)。

4  本件発明を構成要件に分説すると、次のとおりとなる(ただし、構成要件Eについては後記のとおり争いがある。)。

A 繊維質材料の支持層(1)の内側にアルミ箔等の導電性材料層(4)を有し、さらにその内側に熱可塑性材料層(3)を有する一対の積層材料(10、11)を互いに、その最内層である熱可塑性材料層(3、3)間でヒートシールする装置において、

B 前記熱可塑性材料層(3、3)同士を互いに接触させて該一対の積層材料(10、11)を外側から押しつけるための作用面(8)を有するシールジョー(5)が設けられ、

C 該シールジョー(5)は、非導電性の本体(6)と該本体(6)の一方の側面に設けた導電性の棒(7)とで構成され、

D 該棒(7)は、該一方の側面とで前記作用面(8)を構成するとともに、前記一対の積層材料(10、11)の導電性材料(4)をシール帯域以内で高周波誘導加熱し、該一対の積層材料(10、11)の最内層である前記熱可塑性材料層(3、3)を溶融するべく高周波電源に接続するようになっており、該作用面(8)により、該熱可塑性材料層(3、3)同士が前記シール帯域で圧接され、

E さらに前記導電性の棒(7)には、該シール帯域以内で、高周波加熱により溶融された熱可塑性の材料層(3、3)を押し流す突条(9)が前記シール帯域(12、14)に非対称的に位置して設けられている

F ことを特徴とする積層材料のヒートシール装置

5  被告は、イ号物件及びロ号物件を製造販売している。

(一) イ号物件は、次の構成を有する。

a 繊維質材料の支持層(101)の内側に導電性材料層(104)を有し、さらにその内側に熱可塑性材料層(103)を有する一対の積層材料(110、111)を互いに、その最内層である熱可塑性材料層(103)間でヒートシールする装置において、

b 前記熱可塑性材料層(103、103)同士を互いに接触させて該一対の積層材料(110、111)を外側から押しつけるための作用部分のある平坦面(108)を有するシールジョー(105)が設けられ、

c 該シールジョー(105)は、非導電性の本体(106)と該本体(106)の一方の側面に設けた導電性の棒(107)とで構成され、

d 該棒(107)は、該一方の側面とで前記平坦面(108)を構成するとともに、前記一対の積層材料(110、111)の導電性材料(104、104)をシール帯域(113、114、115、116)及びその外側(切断する側)の加圧されていない溶融帯域を高周波誘導加熱し、該一対の積層材料(110、111)の最内層である前記熱可塑性材料層(103、103)を溶融するべく高周波電源に接続するようになっており、前記平坦面(108)の作用部分により、該熱可塑性材料層(103、103)同士が前記シール帯域(113、114、115、116)で圧接され、

e さらに前記導電性の棒(107)には、シール帯域(113、114、115、116)及びその外側の加圧されていない溶融帯域以内で、高周波加熱により溶融された熱可塑性の材料層(103、103)を押し流すとともに、シール帯域(113、114、115、116)の長さ方向の両端部でその外縁(E)寄りの部分及び中央部でかつその外縁(E)に沿う部分をそれぞれ押しつける突条(109a、109b)が、導電性の棒(107)の長さ方向の左右及び中央に設けられていて、中央突条(109b)は、ほぼ円弧状の先端面を有するとともに、高低二段でありかつ中央突条(109b)の縦方向の外縁(B)が前記平坦面(108)の加熱領域(118)の外縁(H)から大きく隔たった位置に設けられ、左右突条(109a)は、ほぼ円弧状の先端面を有しかつ左右突条(109a)の縦方向の外縁(A)が加熱領域(118)の外縁(H)からさらに大きく隔たった位置に設けられており、一対の積層材料(110、111)が、シールジョー(105)と、上面外縁(R)がシール帯域(113、114、115、116)の外縁(E)と合致するゴム製対向ジョー(112)との間で圧せられることにより、溶融熱可塑性材料がシール帯域(113、114、115、116)の外縁(E)から外側に流出し、熱可塑性材料の溶融流出部(117)を生じるようになされている

f 積増材料のヒートシール装置

(二) ロ号物件は、次の構成を有する。

a 繊維質材料の支持層(101)の内側に導電性材料層(104)を有し、さらにその内側に熱可塑性材料層(103)を有する一対の積層材料(110、111)を互いに、その最内層である熱可塑性材料層(103)間でヒートシールする装置において

b 前記熱可塑性材料層(103、103)同士を互いに接触させて該一対の積層材料(110、111)を外側から押しつけるための作用部分のある平坦面(108)を有するシールジョー(105)が設けられ、

c 該シールジョー(105)は、非導電性の本体(106)と該本体(106)の一方の側面に設けた導電性の棒(107)とで構成され、

d 該棒(107)は、該一方の側面とで前記平坦面(108)を構成するとともに、前記一対の積層材料(110、111)の導電性材料(104、104)をシール帯域(113、114、115、116)及びその外側(切断する側)の加圧されていない溶融帯域を高周波誘導加熱し、該一対の積層材料(110、111)の最内層である前記熱可塑性材料層(103、103)を溶融するべく高周波電源に接続するようになっており、前記平坦面(108)の作用部分により、該熱可塑性材料層(103、103)同士が前記シール帯域(113、114、115、116)で圧接され、

e さらに前記導電性の棒(107)には、シール帯域(113、114、115、116)及びその外側の加圧されていない溶融帯域以内で、高周波加熱により溶融された熱可塑性の材料層(103、103)を押し流すとともに、シール帯域(113、114、115、116)の長さ方向の両端部でその外縁(E)寄りの部分を押しつける突条(109)が、導電性の棒(107)の長さ方向の左右に設けられていて、左右突条(109)は、ほぼ円弧状の先端面を有しかつ突条(109)の縦方向の外縁(A)が前記平坦面(108)の加熱領域(118)の外縁(H)から大きく隔たった位置に設けられており、一対の積層材料(110、111)が、シールジョー(105)と、上面外縁(R)がシール帯域(113、114、115、116)の外縁(E)と合致するゴム製対向ジョー(112)との間で圧せられることにより、溶融熱可塑性材料がシール帯域(113、114、115、116)の外縁(E)から外側に流出し、熱可塑性材料の溶融流出部(117)を生じるようになされている

f 積層材料のヒートシール装置

6  イ号物件及びロ号物件の各構成aは構成要件Aを、各構成bは構成要件Bを、各構成cは構成要件Cをそれぞれ充足する。

7(一)  被告物件は、液体食品用充填機において包装容器の横シール部を形成する機構に相当する装置である。

被告は、本件特許権が登録された平成八年三月一三日から本件専用実施権の登録日の前日である平成八年一二月一五日までの間に、被告物件を包装容器の横シール部を形成する機構とする液体食品用充填機(以下「本件液体食品用充填機」という。)を四台製造販売し、平成八年一二月一六日から平成九年九月末日までの間に本件液体食品用充填機を九台製造販売した。

被告による本件液体食品用充填機の販売価格は、一台九〇〇〇万円である。

(二)  被告は、本件特許権が登録された平成八年三月一三日から本件専用実施権の登録日の前日である平成八年一二月一五日までの間に、被告物件中のインダクターを合計一〇九個製造販売し、平成八年一二月一六日から平成一〇年四月末日までの間に、右インダクターを合計二九六個製造販売した。

被告による右インダクターの販売価格は、一個三万六六〇〇円であり、右インダクターの営業利益は販売価格の三〇パーセントである。

三  争点

1  イ号物件及びロ号物件の各構成dは構成要件Dを充足するかどうか。

2  イ号物件及びロ号物件の各構成eは構成要件Eを充足するかどうか。

3  被告物件は、本件特許の出願前に公知、公用であったかどうか、そのために、原告らは本件請求をすることができないかどうか。

4  原告らの損害

第三  争点に関する当事者の主張

一  争点1(構成要件Dの充足性)について

1  原告らの主張

被告物件の構成dの「一対の積層材料(110、111)の導電性材料(104、104)をシール帯域(113、114、115、116)及びその外側(切断する側)の加圧されていない溶融帯域を高周波誘導加熱し」は、「一対の積層材料(110、111)の導電性材料(104、104)をシール帯域(113、114、115、116)……を高周波誘導加熱」するのであるから、構成要件Dの「一対の積層材料(10、11)の導電性材料(4)をシール帯域以内で高周波誘導加熱し」を充足する。

被告物件では、シール帯域の外側(切断する側)の加圧されていない溶融帯域も高周波誘導加熱しているが、構成要件Dの「一対の積層材料(10、11)の導電性材料(4)をシール帯域以内で高周波誘導加熱し」とは、シール帯域以内で高周波誘導加熱により熱可塑性材料層(3、3)を溶融するために加熱することを意味し、シール帯域以内について高周波誘導加熱していれば構成要件Dを充足するのであって、シール帯域を超えた部分を高周波誘導加熱するか否かは構成要件Dの充足性とは無関係である。

また、仮に、被告主張(後記2(一))に係るたい積部分を形成しなければならないとしても、突条の両側に形成する必要はなく、片側に形成すれば足りるから、構成要件Dは、突条の片側についてシール帯域を超えた部分を高周波誘導加熱しないという意味に解されるところ、被告物件では、内容物充填側においては、シール帯域(114)を超えた部分を加熱しておらず、溶融熱可塑性材料がシール帯域内にせき止められて、たい積部分が形成されているから、構成要件Dを充足する。

したがって、被告物件の構成dは構成要件Dを充足する。

2  被告の主張

(一) 本件発明は、互いに対向して置かれた積層材料の熱可塑性材料層を、シール帯域以内のみで加熱し、突条により溶融熱可塑性材料をシール帯域以内に押し流し、かつ、その両側の外方の熱可塑性材料層を固体の状態に保ってそれを互いに押しつけることで、溶融熱可塑性材料をシール帯域から流出しないようにせき止め、これにより、不純物によって密封性の障害が生じないように溶融熱可塑性材料を混合し、熱可塑性材料のたい積部分を形成することによって、シールにおける強みと優れた密封性を保証するというものである。

本件発明において右たい積部分を形成するには、シール帯域のすぐ外側に、溶融されていないが、加圧されて互いに押しつけられている熱可塑性材料層の領域がなければならない。

したがって、構成要件Dの「一対の積層材料(10、11)の導電性材料(4)をシール帯域以内で高周波誘導加熱し」は、文言どおり、「シール帯域以内」で高周波誘導加熱しなければならず、シール帯域以外を加熱するものは含まない。

なお、右たい積部分が突条の片側にしかないものは、溶融熱可塑性材料をシール帯域以内でたい積させたことにならず、「溶融熱可塑性材料の流れの絶対的に多くの部分が突条の加熱される側に向けて指向される。」という本件発明の作用も有しないから、構成要件Dを充足するものではない。

(二) 被告物件においては、高周波誘導加熱により、シール帯域だけではなく、その切断側の外側の加圧されていない範囲まで溶融し、溶融熱可塑性材料がシール帯域の外縁(E)から外側に流出する構成となっているから、溶融熱可塑性材料をシール帯域以内でたい積させるという本件発明の作用を有しない。

したがって、被告物件の構成dは、構成要件Dを充足しない。

二  争点2(構成要件Eの充足性)について

1  原告らの主張

(一) 構成要件Eの「非対称的に位置して」とは、突条の位置がシール帯域の中心から外れた位置、すなわち、シール帯域の突条の中心線を中心として観念的に二つの部分に分けた場合、このシール帯域の両部分が線対称ではないことを意味しており、「突条が前記シール帯域(12、14)に非対称的に位置して設けられている」との記載は、突条の位置がシール帯域の中心から外れた位置、すなわち、シール帯域を突条の中心線を中心として観念的に二つの部分に分けた場合、このシール帯域の両部分が線対称ではない位置に設けられていることを意味するものと一義的に解釈することができるから、右記載は不明瞭ではない。

(二) イ号物件では、三本の突条のうち、長さ方向の両端部の二本の突条(109a)はシール帯域の外縁(E)寄りの部分に設けられており、長さ方向の中央部の一本の突条(109b)はシール帯域の外縁(E)に沿う部分に設けられているから、「シール帯域に非対称的に位置して設けられている」といえる。

また、ロ号物件では、長さ方向の両端部の二本の突条(109)がシール帯域の外縁(E)寄りの部分に設けられているから、「シール帯域に非対称的に位置して設けられている」といえる。ただし、ロ号物件の二本の突条は、両端部分のほんの一か所であるが、突条がシール帯域の中央に位置する部分がある。しかし、突条シール帯域の中央にたまたま合致して位置するのは、突条の位置をそのように定めたからではなく、高周波誘導による加熱という他の技術的要因によるものである。

(三) 本件発明は、突条の形態について何らの限定をしておらず、突条は、一本のものが連続的に配置されていようと、二本ないし三本のものが不連続的に配置されていようと、本件発明の構成要件該当性に影響はない。

(四) したがって、被告物件の構成eは、構成要件Eを充足する。

2  被告の主張

(一) 本件発明の特許請求の範囲の「突条(9)が前記シール帯域(12、14)に非対称的に位置して設けられている」との記載は、その意味が不明瞭であるから、その意義を発明の詳細な説明及び図面から明らかにする必要があるところ、「非対称的」という用語は、第2実施例にのみ用いられているから、第2実施例に基づいて右記載の意義を解釈すべきであり、第2実施例に記載された構成、作用効果からすると、本件発明の構成要件Eは

E① さらに前記導電性の棒(7)には、該シール帯域以内で、高周波加熱により溶融された熱可塑性の材料層(3、3)を押し流す突条(9)が、その縦方向の縁の一方が作用面の加熱領域の一方の縁と概ね合致して設けられ、

② 突条(9)に隣接する加熱領域が突条(9)の他の側の作用面(8)のレベルより高くなされている

という要件を意味するものと解釈すべきである。

(二) 本件出願が分割出願の要件を充たすためには、本件発明が原出願の発明と同一の発明ではないことを要することから、本件発明は、原出願の発明にはない特有の作用効果をもたらす構成を有するものと解釈しなければならないところ、本件発明は、「溶融熱可塑性材料の流れの絶対的に多くの部分が突条の加熱される側に向けて指向される」という作用と「加熱区域が高い位置(本発明の第1実施例に比べて)にあることにより、加熱区域の外側に在り従って固体の状態にある熱可塑性の層に到達する前の熱可塑性材料の流れに、より小さく、より細長い空間が残される。」という作用を有するものとして特許されたものと解される。そして、本件発明において右各作用を有するためには、「突条9の縦方向の縁の一方が作用面8の加熱領域の一方の縁と概ね合致し(図4)、それによって突条9に隣接する加熱領域が突条の他の側の作用面8のレベルより高いレベルに置かれる」という構成が必要となる。

したがって、本件発明の構成要件Eは、前記(一)のE①、②と解釈すべきである。

(三) 被告物件の構成eと構成要件E①、②を対比すると、構成要件E①は、「突条(9)が、その縦方向の縁の一方が作用面の加熱領域の一方の縁と概ね合致して設けられ」というものであるのに対し、イ号物件では、「中央突条(109b)の縦方向の外縁(B)が前記平坦面(108)の加熱領域(118)の外縁(H)から大きく隔たった位置に設けられ」、また、「左右突条(109a)の縦方向の外縁(A)が加熱領域(118)の外縁(H)からさらに大きく隔たった位置に設けられ」というものである点で、ロ号物件では、「左右突条(109)の縦方向の外縁(A)が前記平坦面(108)の加熱領域(118)の外縁(H)から大きく隔たった位置に設けられ」というものである点で、それぞれ構成要件E①と相違する。

また、構成要件E②は、「突条(9)に隣接する加熱領域が突条(9)の他の側の作用面(8)(図4において、突条(9)より左側の平坦面のこと)のレベルより高くなされている」というものであるのに対し、イ号物件の突条(109a、109b)及びロ号物件の突条(109)の両側に隣接する加熱領域はともに同一レベルであるから、それぞれ構成要件E②と相違する。

(四) 仮に、構成要件Eの意味を原告らの主張するとおりに解釈するとしても、構成要件Eの「シール帯域以内で高周波加熱により溶融された熱可塑性材料層(3、3)を押し流す突条(9)」の「シール帯域以内で」は、「押し流す」を修飾しており、本件発明の右一2(一)記載の作用に照らしても、右「シール帯域以内で、高周波加熱により溶融された熱可塑性材料層(3、3)を押し流す突条(9)」は、溶融された熱可塑性材料層をシール帯域以内で押し流す突条を意味する。これに帯し、被告物件の突条は、高周波加熱により溶融された熱可塑性材料層をシール帯域外に押し流すものであるから、被告物件の構成eは構成要件Eを充足しない。また、ここでいう「押し流す」は、単に流せばよいのではなく、「溶融熱可塑性材料の流れの絶対的に多くの部分が突条の加熱される側に向けて指向される。」という本件発明の作用を有するものでなければならず、過流動を生じるようなものでなければならない。そうでないと、不純物によって密封性の障害が生じないように溶融熱可塑性材料を混合するという本件発明の作用を有しないことになるからである。

構成要件Eの「突条」の位置は、シール帯域全体を対象として特定されているから、右「突条」は、シール帯域の全体の長さ以上を有する「一本のものが連続的に」加熱領域に配置されなければならない。ところが、イ号物件は、「シール帯域(113、114、115、116)の長さ方向の両端部でその外縁(E)寄り部分及び中央部でかつその外縁(E)に沿う部分をそれぞれ押しつける突条(109a、109b)が、導電性の棒(107)の長さ方向の左右および中央に設けられ」ており、三本の突条(109a、109b)が不連続に相互に間隔をおいて加熱領域に配置されている。また、ロ号物件は、「シール帯域(113、114、115、116)の長さ方向の両端部でその外縁(E)寄りの部分を押しつける突条(109)が、導電性の棒(107)の長さ方向の左右に設けられ」ており、二本の突条(109)が不連続に相互に間隙をおいて加熱領域に配置されている。したがって、被告物件の「突条」は、それぞれ構成要件Eの「突条」には当たらない。

さらに、ロ号物件の二本の突条は、シール帯域の左右両端部を基準として、その中心に位置して設けられており、シール帯域の中央部分には原告らのいう非対称的に位置した突条を有していない。したがって、ロ号物件は、突条がシール帯域に非対称的に位置して設けられていないから、構成要件Eを充足しない。

三  争点3(被告物件は、本件特許の出願前に公知、公用であるか、そのために原告らは本件請求ができないかどうか)について

1  被告の主張

本件補正は、突条の位置についての特許請求の範囲の記載を「溶融された熱可塑性の材料層(3、3)をシール帯域の一方の側から同シール帯域の他方の側へ押し流すための凸条(9)」(当初明細書)から「突条(9)が前記シール帯域(12、14)に非対称的に位置して設けられている」(本件明細書)と変更するものであるところ、当初明細書及び図面における突条の位置は、加熱区域との関係で定められているのに対し、本件明細書における突条の位置はシール帯域との関係で特定されている。しかるところ、「シール帯域」と「加熱領域」又は「加熱区域」とは異なる概念であるから、「加熱領域」又は「加熱区域」を「シール帯域」に置き換えることはできない。

当初明細書及び図面には、突条の「非対称的な位置」について、「突条9の縦方向の縁の一方が作用面8の加熱領域の一方の縁と概ね合致」するという構成及びこれによる「溶融熱可塑性材料の流れの絶対的に多くの部分が突条の加熱される側に向けて指向される」という固有の作用は開示されているが、原告らが主張するような、突条の中心線とシール帯域の中心線とが不一致であれば、突条がシール帯域に対して非対称的に位置するという意味での「突条がシール帯域に非対称的に位置して設けられている」という技術的事項は、当初明細書及び図面に全く開示されていない。

したがって、本件補正は、要旨変更の補正であるから、本件出願は、平成五年法律第二六号(特許法等の一部を改正する法律)による改正前の特許法(以下「旧特許法」という。)四〇条により、本件補正に係る手続補正書を提出したとき、すなわち、平成七年一〇月四日に出願されたものとみなされるところ、イ号物件は、右出願前に公然と実施されており、ロ号物件は公然と知られていた。

よって、原告らは被告に対して、本件請求をすることはできない。

2  原告らの主張

「突条(9)が前記シール帯域(12、14)に非対称的に位置して設けられている」ことは、当初明細書の問題を解決する手段及び実施例に記載されていたから、本件補正は、要旨を変更するものではない。

四  争点4(原告らの損害)について

1  原告らの主張

(一) 被告は、平成八年三月一三日から平成八年一二月一五日までの間に、本件液体食品用充填機を合計四台製造販売し、平成八年一二月一六日から平成九年九月末日までの間に、合計九台製造販売した。

本件液体食品用充填機における本件発明の寄与率は三〇パーセント、実施料率は六パーセントとするのが相当であるから、特許法一〇二条二項により、原告らは次のとおりの損害の賠償を請求することができる。

(1) 原告エービーテトラパックの損害

9000万円×0.3×0.06×4台=648万円

(2) 原告日本テトラパック

9000万円×0.3×0.06×9台=1458万円

(二) 被告物件中のインダクターの販売価格は三万六六〇〇円である。

右インダクターにおける本件発明の寄与率は一〇〇パーセント、実施料率は売上の六パーセントとするのが相当である。

被告は、平成八年三月一三日から平成八年一二月一五日までの間に、右インダクターを合計一〇九個製造販売した。

したがって、原告エービーテトラパックは、特許法一〇二条二項により、次のとおりの損害の賠償を請求することができる。

3万6600円×0.06×109個=23万9364円

また、被告は、平成八年一二月一六日から平成一〇年四月末日までの間に、右インダクターを合計二九六台製造販売したところ、原告日本テトラパックは、右期間において本件発明を実施していた。

右インダクターの営業利益は売上高の三〇パーセントである。

したがって、原告日本テトラパックは、特許法一〇二条一項により、次のとおり損害を被ったものと推定される。

3万6600円×296台×0.3=225万0080円

2  被告の主張

(一) 本件液体食品用充填機について本件発明の寄与率が三〇パーセントであることは争う。

(二) 本件液体食品用充填機について、本件発明の実施料率が六パーセントであることを争う。

(三) 被告物件中のインダクターについても、本件発明の実施料率が六パーセントであることを争う。

(四) 原告らが本件発明を実施していたことは否認する。

第四  当裁判所の判断

一  本件発明の作用効果等について

1  まず、本件発明の作用効果等について判断するに、本件明細書には、産業上の利用分野として「本発明は、シール帯域内の熱可塑性材料の外層を互いに接触させてこれらを一時的にシール温度に加熱し、融着するようにして包装積層材料をヒートシールする装置に関する。」(別紙本件特許公報(以下「本件公報」という。)2欄12行ないし15行)と記載され、従来技術の項に「この型の全ての包装積層材料に共通の特徴は、これらがその外側、少なく共内容物に面する側に熱可塑性材料……層を具備し、それによって互いに対向した積層材料の二つの部分を熱と圧力とによって共に液密状態にシールできることである。シールが所望の強さと液密性とを有するためには、共にシールすべき二つの熱可塑性の層が必ず清浄で不純物の無いことが必要である。このような場合には熱可塑性の各層の完全な融合を得ることができ、その結果、強い高密封性の点から見て最適のシールがもたらされる。熱可塑性の層の上には通常、熱可塑性の層の押出しと共に包装積層材料上に形成される薄い酸化物の被膜が存在するために熱可塑性の各層の完全な融合が往々にして阻害され、従ってシールは理論的には可能な強さと密封性とを得られない。熱可塑性の層の表面には、例えば、更にシールを阻害する内容物の残留物のような別の種類の不純物も生ずる可能性がある。これは、内容物が在る間に積層材料のシールが行われる、即ちシールを行い得る前に互いに対向して置かれた熱可塑性材料の表面間のすきまから内容物を先ず押し出さなければならない、という形式の包装製造に特有の問題である。しかし実際問題として内容物は完全には絞り出されずに微量の残留物が残り、これがシールを弱める。」(本件公報3欄7行ないし29行)と記載され、発明が解決しようとしている問題点として「本発明の目的は、前述の全ての難点が回避され且つ得られたシールが最適の性状を有するように前述の形式の包装積層材料をヒートシールすることのできる装置を提供することを目的とする。本発明の更に目的とするところは、たとえ包装積層材料が……不純物で覆われていても最適なシールを可能とする包装積層材料をヒートシールする装置を提供することにある。」(本件公報3欄31行ないし39行)と記載され、作用として「シールジョーには突条のみならず隣接領域をも含む積層材料を加熱する領域が具備されているので、加熱された熱可塑性材料は線状領域から隣接領域へ高速で押しやられ、それにより既述のように効果的な混合と、従って優れたシールが得られる。溶融熱可塑性材料がシール帯域から隣接部分わきへ押しやられる間に、溶融熱可塑性材料は可能な限りの不純物を混入連行し、一方、互いに対向して置かれた積層材料の二つの熱可塑性の層は、完全な融合が達成される程度にまで効果的に混合される。シール帯域内には不純物の無い非常に薄い熱可塑性の層のみが残り、これが包装積層材料の支持層と密着し、一方シール帯域の隣接領域内いでは双方の熱可塑性の層からの良く混合された熱可塑性材料のたい積部分によって強みと優れた密封性が保証される。」(本件公報4欄12行ないし25行)と記載されている。

また、本件明細書には、本件公報図3のようにしてシールされる第1実施例(図3の13、14はシール帯域、15はたい積部分(ふくらみ部分))に続いて、第2実施例として「ある種の充てん物と共に使用するには、より幅広く且つ平たんなふくらみ部分15を得るために溶融熱可塑性材料の流れを突条部分から更に遠方へ移行することが有利であろう。この手法によれば、前述の実施例に比べて更に円滑且つ柔軟性のあるシールを達成することが可能である。またこれによって、シールをより強め、突出を生じて集中応力がかかる部分のないような、より直線的なシール・エッジが得られる。前述の利点は、突条9の縦方向の縁の一方が作用面8の加熱領域の一方の縁と概ね合致し(図4)、それによって突条9に隣接する加熱領域が突条の他の側の作用面8のレベルより高いレベルに置かれる本発明の第2実施例によって達成される。本発明の第2実施例の更に特徴するところによれば、加熱区域のレベルと突条9のレベルとの間の距離は、前記加熱区域と突条9の他の側の作用面8のレベルとの間の距離にほぼ等しく、換言すれば距離aは距離bとほぼ同等である(図4)。本発明による装置の第2実施例が用いられる場合には、加熱区域に帯する突条9の非対称的な位置決めにより、溶融熱可塑性材料の流れの絶対的に多くの部分が突条の加熱される側に向けて指向される。加熱区域が高い位置(本発明の第1実施例に比べて)にあることにより、加熱区域の外側に在り従って固体の状態にある熱可塑性の層に到達する前の熱可塑性材料の流れに、より小さく、より細長い空間が残される。従って突条9の直前にある高圧帯域から絞り出された熱可塑性材料の細長いふくらみ、またはたい積部分15は、ふくらみ部をより柔軟性のあるものとし、シールを更に協力なものとする、より平たんで細長い断面形状を与えられる。」(本件公報6欄34行ないし7欄12行)と記載されている。

2  本件発明の特許請求の範囲に右1認定の事実を総合すると、本件発明は、加熱された熱可塑性材料がシール帯域の突条に対応する部分(線状領域)から突条に対応しない部分(隣接領域)へ高速で押しやられて、それにより熱可塑性材料が効果的に混合され、シール帯域の突条に対応する部分(線状領域)には、不純物の無い非常に薄い熱可塑性の層のみが残り、これが包装積層材料の支持層と密着し、一方シール帯域の突条に対応しない部分(隣接領域)では、熱可塑性の層からの良く混合された熱可塑性材料による優れたシールが得られるという作用効果を有するものと認められる。なお、本件発明においては、右認定のとおり、シール帯域の突条に対応する部分(線状領域)では、不純物の無い熱可塑性の層が存しなければならないが、シール帯域の突条に対応しない部分(隣接領域)では、良く混合されていればよく、不純物が存していても、混合によって密封性について障害が生じていなければ、右作用効果を有するものと認められる。

また、本件発明は、「突条(9)が前記シール帯域(12、14)に非対称的に位置して設けられている」ものであるが、このうち「シール帯域」は、右1認定の「この型の全ての包装積層材料に共通の特徴は、これらがその外側、少なくとも内容物に面する側に熱可塑性材料……層を具備し、それによって互いに対向した積層材料の二つの部分を熱と圧力とによって共に液密状態にシールできることである。」(本件公報3欄7行ないし11行)との記載からすると、「熱と圧力とによって共に液密状態にシールされる帯域」と解され、「非対称的に位置して」は、右1認定の「ある種の充填物と共に使用するには、より幅広く且つ平坦なふくらみ部分15を得るために溶融熱可塑性材料の流れを突条部分から更に遠方へ移行することが有利であろう。この手法によれば、前述の実施例に比べて更に円滑且つ柔軟性のあるシールを達成することが可能である。」(本件公報6欄34行ないし39行)との記載、「加熱区域に対する突条9の非対称的な位置決め」(本件公報7欄2、3行)との記載及び図4の拡大断面図に照らすと、突条の両側に幅の異なる隣接領域が形成されるような位置、すなわち、ある幅を持った区域の幅方向の中心線から外れた位置を意味するものと解釈することができる。そして、右1認定の事実によると、このように突条がシール帯域に非対称的に位置して設けられていることにより、突条が対称的な位置に設けられている場合よりも、溶融された熱可塑性材料を更に遠方へ移行することができ、そのため、シール部分は、幅広くかつ平坦になり、その結果、柔軟性のある強力なシールが得られるという作用効果を有するものと認められる。

前記第二の一のとおり、昭和五七年出願明細書や当初明細書においては、特許請求の範囲に、シール帯域の突条に対応しない部分(隣接領域)に熱可塑性材料のたい積部分を形成するための構成(昭和五七年出願明細書では、「溶融材料が流出されるが、これが前記熱可塑性材料の外層(3)の溶融していない部分によりせき止められるようになっていること」という構成、当初明細書では、「前記一対の積層材料(10、11)の最内層である熱可塑性材料層(3、3)同士が前記シール帯域およびその両外側帯域で互いに圧接されるようにされ、」という構成)が存したのであるが、本件発明の特許請求の範囲には、そのような構成は存在しないのであるし、また、たい積部分が存しないと、右認定のような作用効果を有しないとも認められない。したがって、たい積部分が存することは本件発明の要件ではない。

二  争点1(構成要件Dの充足性の有無)

1  被告物件の構成dが構成要件Dを充足するかについて判断するに、本件発明の構成要件Dと被告物件の構成dとを対比すると、違いがあるのは、構成要件Dの「一対の積層材料の導電性材料をシール帯域以内で高周波誘導加熱し」の部分と被告物件の構成dの「一対の積層材料の導電性材料をシール帯域及びその外側(切断する側)の加圧されていない溶融帯域を高周波誘導加熱し」の部分である。

そこで、被告物件の構成dの「一対の積層材料の導電性材料をシール帯域及びその外側(切断する側)の加圧されていない溶融帯域を高周波誘導加熱し」が、本件発明の構成要件Dの「一対の積層材料の導電性材料をシール帯域以内で高周波誘導加熱し」を充足するかどうかについて判断する。

2  構成要件Dの「一対の積層材料の導電性材料をシール帯域以内で高周波誘導加熱し」という文言からすると、本件発明においては、導電性材料をシール帯域において高周波誘導加熱しなければならないということができるが、シール帯域以外を高周波誘導加熱することが文言上当然に禁止されているとまでいうことはできない。

3  また、右一で述べたところからすると、本件発明において、たい積部分を形成するために、シール帯域のすぐ外側に、溶融されていないが、加圧されて互いに押しつけられている熱可塑性材料層の領域がなければならないということはできないから、本件発明は、互いに対向して置かれた積層材料の熱可塑性材料層を、シール帯域以内のみで加熱し、その外側は加熱しないものであるということはできない。

4  本件明細書の発明の詳細な説明には、第1実施例について、「シール帯域13、14の外方の領域で互いに対向して位置する熱可塑性の層3は引き続き固体の状態を保ち、互いに対向して押し付けられるので、溶融熱可塑性材料はそれ以上シール帯域外方に流出できずに参照番号14で示される二つの帯域に留まり、ここで細長い圧力帯域13と平行に延びるふくらみ部分15を形成し、その中で互いにシールされた二つの層が混合される。」(本件公報6欄14行ないし20行)との記載があることが認められる。しかし、右一で述べたところに照らせば、本件発明が右実施例のようなものに限られないことは明らかであるから、右記載があるからといって、本件発明について、熱可塑性材料をシール帯域内のみで加熱するものであると解さなければならないということはない。

また、証拠(乙一〇)によると、原告エービーテトラパックが原出願について平成六年七月二六日に特許庁審査官に対して提出した意見書には、「突条9により中央帯域13から両外側帯域14へ押し流された溶融材料は、両外側帯域14の外側の非溶融状態の熱可塑性材料層3、3によりブロックされ、これにより、両外側帯域14以内で渦流状態で積上がり、熱溶融可塑性材料を十分に混合し、かつ膨らみ部15を造成することができます。」との記載があることが認められるが、証拠(乙一〇)によると、原告エービーテトラパックは、同日、原出願について、補正し、特許請求の範囲を、熱溶融可塑性材料層3、3をヒートシールするシールジョー5は、導電性の棒7を設けた非導電性の本体6の一側面で作用面8を構成し、この作用面8を右積層材料に押しつけることにより、積層材料層の最内層である可塑性材料層3、3同士を互いに接触させてシール帯域13、14で加熱溶融させると共に、シール帯域13、14の外側で非加熱状態で圧接されるようにし、さらに前記導電性棒7には、加熱溶融された熱可塑性材料層3、3を該シール帯域13、14の中央帯域13から両外側帯域14へ押し流すための凸条9が設けられた構成としたものと認められるから、右意見書は、原出願を補正し、シール帯域の外側を加熱しないことを明確にした構成としたことに伴って提出されたものであって、同じ日に原出願から本件出願が分割出願されているのであるから、右意見書の記載から、本件発明について、熱可塑性材料をシール帯域内のみで加熱するものであると解さなければならないということはない。

さらに、右一1認定のとおり、本件明細書には、第2実施例について、「第2実施例が用いられる場合には、加熱区域に対する突条9の非対称的な位置決めにより、溶融可塑性材料の流れの絶対的に多くの部分が突条の加熱される側に向けて指向される。」との記載があるが、本件発明の特許請求の範囲には、そのような作用に対応する構成はない上、溶融熱可塑性材料の流れの絶対的に多くの部分が、「突条の加熱される側」、すなわち、シール帯域の突条の一方の側にある、より幅の広い部分に流れなければ、右一認定の作用を有しないとも認められないから、この記載は、突条の縦方向の縁の一方が作用面の加熱領域の一方の縁と概ね合致しており、シール帯域の両方の外側を加熱せず加圧している第2実施例について述べたものにすぎないということができる。したがって、右記載から、本件発明は、シール帯域の両方の外側を加熱せず加圧するものでなければならないと解することはできない。

なお、証拠(乙一二)によると、原告エービーテトラパックは、昭和五七年出願についての審判事件答弁書において、加熱溶融された熱可塑性材料は、シール帯域13、14において、渦流動を形成している旨の主張をしていることが認められるが、前記第二の一2の事実に証拠(乙一二)を総合すると、昭和五七年出願は、シール帯域の外側において、溶融された熱可塑性材料がせき止められる構成を有する発明に関するものであると認められるから、右主張から本件発明を解釈することはできない。本件明細書には、渦流動についての記載はない上、渦流動を生じないと効果的な混合ができないことを認めるに足りる証拠もないから、本件発明について、渦流動を生じなければならないと解することはできない。

5  以上述べたところからすると、構成要件Dの「一対の積層材料の導電性材料をシール帯域以内で高周波誘導加熱し」は、シール帯域を高周波誘導加熱することを意味しており、シール帯域以外を高周波誘導加熱することを禁じているものではないと解される。

6  被告物件の「一対の積層材料の導電性材料をシール帯域及びその外側(切断する側)の加圧されていない溶融帯域を高周波誘導加熱し」との構成dは、シール帯域を高周波誘導加熱するものであるから、被告物件は、本件発明の構成要件Dの「一対の積層材料の導電性材料をシール帯域以内で高周波誘導加熱し」を充足し、「外側(切断される側)の加圧されていない溶融帯域を高周波誘導加熱」していることは、右構成要件充足性を左右するものではない。

三  争点2(構成要件Eの充足性の有無)について

1  被告物件の構成eが本件発明の構成要件Eを充足するかどうかについて判断するに、右一2認定のとおり、本件明細書の特許請求の範囲の「突条(9)が前記シール帯域(12、14)に非対称的に位置して設けられている」とは、突条がシール帯域(熱と圧力とによって共に液密状態にシールされる帯域)の幅方向の中心線から外れた位置に設けられているという意味であると解釈することができる。

2  被告は、特許請求の範囲の「突条(9)が前記シール帯域(12、14)に非対称的に位置して設けられている」との記載の意味が不明瞭であるから第2実施例に基づき右記載の意味を解釈すべきである旨主張する(第三の二2(一))が、右記載の意味が右のとおり明瞭に解釈することができるのであり、その意味が不明瞭であるとはいえないから、被告の右主張は採用できない。

3  また、被告は、本件発明が原出願の発明と同一の発明にならないように特有の作用効果を奏する構成を有するものと解すると、構成要件EはE①、②のように解釈すべきである旨主張する(第三の二2(二))。

しかし、原出願の特許請求の範囲には、「該シールジョー(5)の作用面(8)には、シール帯域(13、14)内で高周波加熱により溶融された熱可塑性材料層(3、3)をシール帯域(14)に押し出し堆積させるための突条(9)が設けられている」と記載されているのみで、作用面のどの位置に突条を設けるかという位置についての限定的な記載はないから、原出願の発明は、作用面における突条の位置を特に限定しないヒートシール装置に関する発明であると認められる。

これに対して、本件発明は、「突条がシール帯域に非対称的に位置して設けられ」と突条の位置を限定したものに対して特許されたものであり、そのことによって、右一認定のとおり本件発明特有の作用効果を有するから、本件発明は、原出願の発明と同一ということはできない。

なお、右一3のとおり、本件明細書における「溶融熱可塑性材料の流れの絶対的に多くの部分が突条の加熱される側に向けて指向される。」との作用は第2実施例の作用であって、本件発明の作用ということはできない。また、右一1認定の「加熱区域が高い位置(本発明の第1実施例に比べて)にある」との構成及びそのことによる「加熱区域の外側に在り従って固体の状態にある熱可塑性の層に到達する前の熱可塑性材料の流れに、より小さく、より細長い空間が残される。」との作用も、本件発明の特許請求の範囲には加熱区域が高い位置にあることについての記載が全くないことやそのような構成を採らないと右一認定の作用が生じないとも認められないことからすると、第2実施例の構成及び作用であって、本件発明の構成及び作用ということはできない。さらに、右一1認定の「突条9の縦方向の縁の一方が作用面8の加熱領域の一方の縁と概ね合致」するという構成も、本件発明の特許請求の範囲には突条が右のような位置にあることについての記載が全くないことやそのような構成を採らないと右一認定の作用効果が生じないとも認められないことからすると、第2実施例の構成であって、本件発明の構成ということはできない。

したがって、被告の右主張は採用できない

4  以上の基づいて被告物件の構成eと構成要件Eとを対比する。

被告物件におけるシール帯域(113、114、115、116)は、構成dにより「前記一対の積層材料(110、111)の導電性材料(104、104)をシール帯域(113、114、115、116)……を高周波誘導加熱し、該一対の積層材料(110、111)の最内層である前記熱可塑性材料層(103、103)を溶融するべく高周波電源に接続するようになっており、……該熱可塑性材料層(103、103)同士が前記シール帯域(113、114、115、116)で圧接されるから、本件発明のシール帯域と同じく「熱と圧力とによって共に液密状態にシールされる帯域」である。

そして、イ号物件の中央突条(109b)は、「シール帯域(113、114、115、116)の長さ方向の中央部でその外縁(E)に沿う部分」を押しつける位置に設けられ、左右突条(109a)は、「シール帯域(113、114、115、116)の長さ方向の両端部でかつその外縁(E)寄りの部分」を押しつける位置に設けられているから、中央突条及び左右突条はいずれもシール帯域の幅方向中心線から外れた位置に設けられていて突条の一方側には他方側に比べて幅の広い隣接領域が形成されている。また、ロ号物件の突条(109)は、「シール帯域(113、114、115、116)の長さ方向の両端部でかつその外縁(E)寄りの部分」を押しつける位置に設けられているから、シール帯域の幅方向中心線から外れた位置に設けられていて突条の一方側には他方側に比べて幅の広い隣接領域が形成されている。

したがって、被告物件の突条はいずれもシール帯域に非対称的に位置して設けられているということができるから、構成eは本件発明の構成要件Eを充足する。

5(一)  被告は、構成要件Eの「シール帯域内で、高周波加熱により溶融された熱可塑性の材料層(3、3)を押し流す突条(9)」とは、溶融熱可塑性材料をシール帯域以内で押し流す突条を意味する旨主張する。

しかし、右一及び二で認定したとおり、本件発明は、シール帯域の外側に対向して位置する熱可塑性材料層が固体の状態で加圧される領域を設けるという限定のないものであって、溶融熱可塑性材料の流れをシール帯域の外側でせき止めることを要件とするものではない。したがって、構成要件Eの「シール帯域以内で、高周波加熱による溶融された熱可塑性の材料層(3、3)を押し流す突条(9)」の「シール帯域以内で」が「押し流す」を修飾するとしても、右「シール帯域以内で、高周波加熱により溶融された熱可塑性の材料層(3、3)を押し流す突条(9)」をことさら「シール帯域以内のみで押し流す突条」と限定して解釈する理由はないから、被告の右主張は採用できない。

(二)  被告は、構成要件Eの「押し流す」は、「溶融熱可塑性材料の流れの絶対的に多くの部分が突条の加熱される側に向けて指向される。」という本件発明の作用を有するものでなければならず、渦流動を生じるようなものでなければならない。そうでないと、不純物によって密封性の障害が生じないように溶融熱可塑性材料を混合するという本件発明の作用を有しないと主張する。

しかし、「溶融熱可塑性材料の流れの絶対的に多くの部分が突条の加熱される側に向けて指向される。」ということや渦流動を生じることが本件発明の作用でないこと及びこれがないと本件発明の作用を生じないとは認められないことは、右二4で既に判示したとおりであつて、被告の右主張は採用できない。

(三)  被告は、構成要件Eの突条は、シール帯域の全体の長さ以上を有する「一本のものが連続的に」加熱領域に配置されたものでなければならないと主張する。

しかし、本件発明の特許請求の範囲には、本件発明の突条の長さ方向の形状について特に限定する記載はない。また、突条が長さ方向に不連続であっても、突条が設けられた範囲においては、突条が溶融熱可塑性材料を押し出し、右一認定の作用効果を有するものということができる。したがって、構成要件Eの突条を一本の連続したものと限定して解釈すべきであるとはいえず、被告の右主張は採用できない。

(四)  被告は、ロ号物件の二本の突条は、シール帯域の左右両端部を基準として、その中心に位置して設けられているから構成要件Eを充足しない旨主張するが、別紙ロ号物件目録と証拠(乙一九)及び弁論の全趣旨によると、ロ号物件の二本の突条のほとんどの部分はシール帯域(113、114、115)の外縁(E)寄りに設けられていること、二本の突条がシール帯域の幅方向の中心に位置するのは、各突条の左右両端部の一か所にすぎないこと、以上の事実が認められ、この事実によると、ロ号物件の二本の突条はシール帯域に非対称的に位置して設けられていて、右一認定の本件発明の作用効果を有するものと認められるから、たまたま突条の両端部がシール帯域の左右両端部の中心と一か所合致するからといって、構成要件Eの「突条がシール帯域に非対称的に位置して設けられている」を充足しないということはできない。したがって、被告の右主張は採用できない。

四  争点3(被告物件は、本件特許の出願前に公知、公用であるか、そのために原告らは本件請求ができないかどうか)について

1 右一認定のとおり、本件明細書の第2実施例には、突条を非対称的な位置に設けることが記載されているところ、当初明細書の発明の詳細な説明の記載は本件明細書の発明の詳細な説明の記載と同一であるから、当初明細書の第2実施例には、突条を非対称的な位置に設けることが記載されている。

ところで、当初明細書の第2実施例には、本件明細書の特許請求の範囲のように「シール帯域に非対称的に位置して」とは記載されておらず、「加熱区域に対する突条9の非対称的な位置決め」(本件公報7欄2行ないし3行、当初明細書の発明の詳細な説明及び図面は、本件明細書の発明の詳細な説明及び図面と同一であるので、以下本件公報から引用する。)と記載されている。しかし、右一認定の第2実施例に関する記載に本件公報に記載されている図4の拡大断面図を総合すると、第2実施例においては、加熱区域とシール帯域が一致することが認められる。また、第2実施例の「溶融熱可塑性材料の流れを突条部分から更に遠方へ移行することが有利であろう。この手法によれば、前述の実施例に比べて更に円滑且つ柔軟性のあるシールを達成することが可能である。またこれによって、シールをより強め、突出を生じて集中応力がかかる部分のないような、より直線的なシール・エッジが得られる。」(本件公報7欄2行ないし3行)という作用効果を有するかどうかは、突条がシール帯域のどの位置にあるかによって決まるものであって、突条が加熱区域のどの位置にあるかは決め手にならないものと考えられる。したがって、同実施例においては、「加熱区域に対する突条9の非対称的な位置決め」は、「シール帯域に対する突条9の非対称的な位置決め」を意味しているに他ならず、同実施例において「シール帯域に対する突条9の非対称的な位置決め」について開示されているものと認められる。

2 また、当初明細書の第2実施例は、「突条9の縦方向の縁の一方が作用面8の加熱領域の一方の縁と概ね合致し」(本件公報6欄42行ないし43行)ているもので、「溶融熱可塑性材料の流れの絶対的に多くの部分が突条の加熱される側に向けて指向される。」(本件公報7欄3行ないし4行)という作用を有するのであるが、右1のとおり、第2実施例においては、「シール帯域に対する突条9の非対称的な位置決め」についても開示されており、そのことによって右一認定のような作用効果を有することも、当初明細書及び図面の記載から理解することができるから、当初明細書及び図面において、「突条9の縦方向の縁の一方が作用面8の加熱領域の一方の縁と概ね合致し」ているもので、「溶融熱可塑性材料の流れの絶対的に多くの部分が突条の加熱される側に向けて指向される。」という作用を有するもののみが開示されていたということはできず、「突条がシール帯域に非対称的に位置して設けられている」との技術的事項は当初明細書及び図面において開示されていたということができる。

3 したがって、本件補正は、旧特許法四〇条の要件を満たさない補正であることが明らかであるとは認められないから、被告の主張は理由がない。

五  被告の責任と原告らの損害

以上のとおりであるから、被告物件は本件発明の構成要件を全て充足し、その技術的範囲に属するものと認められる。

したがって、被告が被告物件を製造販売する行為は、原告エービーテトラパックの本件特許権及び原告日本テトラパックの本件専用実施権を侵害するものであるから、原告らは被告に対して右侵害行為の差止めを請求することができる。

また、弁論の全趣旨によると、被告物件中のインダクターは、被告物件の生産にのみ使用するものであると認められるから、被告が右インダクターを製造販売する行為は、原告エービーテトラパックの本件特許権及び原告日本テトラパックの本件専用実施権を侵害するものとみなされる。

被告は、特許法一〇三条により、右の各侵害行為について過失があったものと推定されるから、これによって原告らに生じた損害を賠償する責任がある。

そこで、原告らの損害について検討する。

1  まず、本件液体食品用充填機の売上げに対する本件発明の寄与率について判断する。

証拠(甲三、一三、乙六)と弁論の全趣旨によると、本件液体食品用充填機はロール状に巻かれた包装積層材料を引き出して垂直に降ろしながら筒状に成形し、包装容器の縦シール部を形成した後に液体食品を充填し、包装容器の横シールを形成した上で切断して液体食品の充填された包装容器を製造する装置であり、被告物件は本件液体食品用充填機の横シール部を形成する機構に相当する装置であること、本件液体食品用充填機において包装容器を製造するに当たっては、横シール部を完全に密封することが液体食品の品質を保持する上で重要であるから、本件液体食品用充填機において被告物件は重要な機構の一つであること、本件液体食品用充填機のボルトやナットを除いた部品の総点数は約九〇〇〇個であり、そのうち横シール部を形成する機構の部品数は約一八〇〇個であるから、本件液体食品用充填機の総部品中にしめる割合は、約二〇パーセントであること、以上の事実が認められる。

右認定の事実を考慮すると、本件液体食品用充填機の売上げに対する本件発明の寄与率は、二〇パーセントとするのが相当である。

2  次に本件発明の実施料率について判断する。

証拠(甲一一、乙一五)と弁論の全趣旨によると、本件液体食品用充填機の技術分野は日本標準産業分類のF二九九の「その他の機械」に属すること、社団法人発明協会発行の「実施料率」第四版では、昭和六三年度から平成三年度までにおける「その他の機械」(イニシャルペイメントなし)の実施料率別契約件数は、中央値、最頻値がそれぞれ五パーセントであること、国内においては、包装積層品をヒートシールするための装置を含む液体食品用充填機を製造販売していたのは、被告が本件液体食品用充填機の製造販売を開始するまでは原告日本テトラパック一社のみであったが、被告が右製造販売を開始した後は、原告日本テトラパック及び被告の二社となったこと、以上の事実が認められる。

右認定の事実を総合すると、本件発明の実施料率は、原告が主張するとおり六パーセントとするのが相当である。

3  弁論の全趣旨によると、被告物件中のインダクターについての本件発明の利用率は一〇〇パーセントであることが認められる。

4  以上に基づいて、原告の受けた損害額について検討する。

(一) 原告エービーテトラパックの損害

前記第二の二7(一)のとおり、被告は、本件特許権が登録された平成八年三月一三日から本件専用実施権の登録日の前日である平成八年一二月一五日までの間に、本件液体食品用充填機を四台製造販売し、被告による本件液体食品用充填機の販売価格は、一台九〇〇〇万円であったから、原告エービーテトラパックは、特許法一〇二条二項により、次のとおり、四三二万円の損害賠償を請求することができる。

9000万円×0.2×0.06×4台=432万円

前記第二の二7(二)のとおり、被告は、平成八年三月一三日から平成八年一二月一五日までの間に、被告物件中のインダクターを合計一〇九個製造販売し、右インダクターの販売価格は、一個三万六六〇〇円であるから、原告エービーテトラパックは、特許法一〇二条二項により、次のとおり、二三万九三六四円の損害賠償を請求することができる。

3万6600円×0.06×109個=23万9364円

以上を合計すると、原告エービーテトラパックは、被告に対し、四五五万九三六四円の損害賠償を請求することができる。

原告エービーテトラパックは、損害金のうち、金二二一万二九二〇円に対しては平成八年一〇月一〇日から年五分の遅延損害金を請求しているところ、被告が本件液体食品用充填機を平成八年三月末日までに二七台販売し、同年四月一日から同年八月末日までの間に一台販売し、同年九月一日から同年一〇月末日までの間に三台販売したこと、被告物件中のインダクターは消耗品であることは当事者間に争いがなく、右争いのない事実によると、被告は平成八年三月一三日から同年一〇月一〇日までの間に本件液体食品用充填機を二台以上販売し、右インダクター一〇九個の半数以上を販売したものと推認できるから、平成八年一〇月一〇日の時点で金二二一万二九二〇円以上の損害が生じていたものと認められ、右遅延損害金の請求は理由がある。

(二) 原告日本テトラパックの損害

(1) 前記第二の二7(一)のとおり、被告は、本件専用実施権の登録日である平成八年一二月一六日から平成九年九月末日までの間に本件液体食品用充填機を九台製造販売し、被告による本件液体食品用充填機の販売価格は、一台九〇〇〇万円であったから、原告日本テトラパックは、特許法一〇二条二項により、次のとおり、九七二万円の損害賠償を請求することができる。

9000万円×0.2×0.06×9台=972万円

(2)  証拠(甲三、甲一三、検甲四)によると、原告日本テトラパックの製造販売する包装積層品をヒートシールするための装置において使用されるインダクターの作用面の突条は、シール帯域の中心線よりも切断部側、すなわち、内容物を充填しない側に設けられていることが認められ、この事実に証拠(甲三、甲一三、検甲四)と弁論の全趣旨を総合すると、原告日本テトラパックの製造販売するヒートシール装置は本件発明の実施品であること及び原告日本テトラパックは右装置のインダクターのみの製造販売もしていることが認められる。

被告は、原告日本テトラパックは本件発明を実施していないと主張し、その根拠として、本件発明は、溶融熱可塑性材料の流れの絶対的に多くの部分が突条の加熱される側に向けて流れ込み、渦流動を起こして混合するというものであるところ、原告日本テトラパックの製造販売しているヒートシール装置による横シール部の断面写真(乙一六)では、そのような混合は生じていないと主張する。

しかし、右二4のとおり、本件発明は、被告が主張する右のようなものであるということはできないから、右主張はその前提を欠くものである。また、右装置によって製造された製品の横シール部の突条に対応しない部分(隣接領域)に不純物が一部残存している(乙一六)からといって、右一認定の本件発明の作用効果を有しないことにならないことは、右一で判示したところから明らかである。したがって、乙一六は、原告日本テトラパックの製造販売するヒートシール装置が本件発明の実施品であるとの右認定を覆すに足りるものではない。

(3)  前記第二の二7(二)のとおり、被告は、平成八年一二月一六日から平成一〇年四月末日までの間に、被告物件中のインダクターを合計二九六個製造販売し、右インダクターの販売価格は、一個三万六六〇〇円であり、右インダクターの営業利益は販売価格の三〇パーセントであるから、特許法一〇二条一項により、原告日本テトラパックの損害額は、次のとおり、三二五万〇〇八〇円と推定され、原告日本テトラパックは被告に対し同額の損害賠償を請求することができる。

3万6600円×0.3×296個=325万0080円

(4) 以上を合計すると、原告日本テトラパックは、被告に対し、一二九七万〇〇八〇円の損害賠償を請求することができる。

六  まとめ

以上の次第で、原告らの本訴請求のうち、被告物件の製造販売の差止め及び被告物件の廃棄を求める部分はいずれも理由があり、また、不法行為に基づく損害賠償を求める部分は、主文三項及び四項掲記の限度で理由があるから、これらを認容し、その余は棄却することとし、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官森義之 裁判官榎戸道也 裁判官中平健)

別紙特許公報<省略>

別紙イ号物件目録<省略>

別紙ロ号物件目録<省略>

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